読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

のきばメモ

佐々木正悟 nokiba のブログです。ここでは特にテーマを絞らずになんでも書きます

「押しつけない」のが難しいのは認知コストがかかるから

『ライフハック心理学』

いまでは政治について考えるとき、「多数派の専制」は一般に社会が警戒すべき害悪のひとつとされている。

(中略)

社会それ自体が専制的になっているとき──すなわち、集団としての社会が個々の人間を抑圧するとき──その抑圧の手段は、政府の役人が行う活動のみに限られるものではない、というのである。

(中略)

社会が干渉すべきでないものごとについての命令であったりすれば、社会による抑圧はたいていの政治的な圧迫よりもはるかに恐ろしいものになる。というのも、通常、それは政治的な圧迫のように極端な刑罰をちらつかせたりしないが、日常生活の細部により深く浸透し、人間の魂そのものを奴隷化して、そこから逃れる手立てをほとんどなくしてしまうからである。

(中略)

役人の専制から身を守るだけでは十分ではない。多数派の思想や感情による抑圧にたいしても防御が必要だ。すなわち、多数派が、法律上の刑罰によらなくても、考え方や生き方が異なるひとびとに、自分たちの考え方や生き方を行動の規範として押しつけるような社会の傾向にたいして防御が必要である。

(中略)

一般論としては誰も反対しそうにないが、じっさいの問題として、どこに限界を設けるべきか──個人の独立と社会による統制をいかにうまく調整するか──となると、それはほとんど未解決のまま残されている課題である。

 

自由論 (光文社古典新訳文庫)
自由論 (光文社古典新訳文庫) ミル 斉藤 悦則

光文社 2012-06-20
売り上げランキング : 1261


Amazonで詳しく見る by G-Tools

引用がかなり長くなったが、この本が書かれたのは1800年代の中頃なのだ。

今でさえ同じ課題が難題なのは、「夫婦別姓」とか「渋谷区パートナーシップ証明書」、といったキーワードから容易に類推できる。 

多数派が、法律上の刑罰によらなくても、考え方や生き方が異なるひとびとに、自分たちの考え方や生き方を行動の規範として押しつけるような社会の傾向」というようなものは、今後もおそらくずっと存在し続けるはずだが、心理学的には「システム1」による直感を働かせる方が、「システム2」を動かすよりもずっと認知コストがかからず、したがってすばやく容易にできるから、ということになる。

 

バイアスとは、ある特定の状況で決まって起きる系統的エラーのことである。これから見ていくように、システム1は本来の質問を易しい質問に置き換えて答えようとするきらいがあるうえ、論理や統計はほとんどわかっていない。システム1のもう一つの欠陥は、スイッチオフできないことである。

(中略)

ところがシステム2は怠け者という性格を備えており、どうしても必要な努力以上のことはやりたがらない。そこで、システム2が自分で選んだと信じている考えや行動も、じつはシステム1の提案そのままだったということが、往々にして起きる。

 

ファスト&スロー(上) あなたの意思はどのように決まるか? (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
ファスト&スロー(上) あなたの意思はどのように決まるか? (ハヤカワ・ノンフィクション文庫) ダニエル・カーネマン 村井章子

早川書房 2014-06-20
売り上げランキング : 1153


Amazonで詳しく見る by G-Tools

 

たとえば、あくまでもたとえ話であるが、「夫婦別姓を承認する法律を立法するべきであるか?」という問題について考えるのは、特にそれに心理的抵抗を少しでも感じる人にとっては、難しい。少なくとも「システム2」を発動する必要がある。

それで自分への質問を、答えやすいものに置き換えてしまうのである。

たとえば「一般論として、夫婦は仲良くした方がいいか?」といったように。

そしてこれなら「システム1」でも簡単に答えられる。特に自分が「多数派」に属している人にとっての「システム1」なら、この問いには容易に答えられる。