佐々木正悟のメンタルハック

メンタルハックをテーマにおいたビジネス書作家・佐々木正悟のブログです。ビジネス書作家のワークスタイルを中心に書いていきます

私は仕事から脱線する

タスクリストによれば「今すぐ寝て、明日の朝早く論文を書くべきである」とあるとする。
 
しかしオリンピックのエキジビションが今テレビでやっていて、それを見るまで寝たくない、とする。
 
どうすればいいのか?
今すぐ寝るべきか?
それともテレビを見た方がいいか?
これはある種の人にとっては決して簡単に判断できる状況ではない。こういう時私たちは「質問を変える」ことで切り抜けるというのがダニエル・カーネマンの指摘する「ヒューリスティック」だ。
 
困難な問題に直面したとき、私たちはしばしばより簡単な問題に答えてすます。
 

 

ファスト&スロー(上) あなたの意思はどのように決まるか? (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

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タスクリストがあったとしても「脱線する可能性」はいくらでもある。エキジビションを見てしまって夜更かしすることを強制的にやめさせる力は、タスクリストにはまったくない。
 
「心が洗われる気持ちがした。こういう気持ちになれたんだから、エキジビションを見てよかったのでは?」
 
これが「答えるのに簡単な質問」である。ここでは質問のすり替えが起こっている。だが場合によっては自分の問題をすり替えたことに気付きもしない。そのこともカーネマンは重ねて強調している。「問題を置き換えたことに、たいていは気づいていない。」
 
ここでよく「タスクリストに縛られる生活には自由がない」という議論に発展しがちなのだが、これも問題のすり替えである。「論文を書く」のも「エキジビションを見る」のもどちらを選ぶのも「自由」である。刹那的にやりたいことをやった方が、より自由度が高いという話にはならない。
 
問題は自由かどうかではなく価値観である。心が洗われる体験と、仕事を締め切りまでに間に合わせる体験と、どちらかを捨てなければならなければどうするか? このいずれを選ぶかは、価値観によって変わる。だから「7つの習慣」などでは、難しい問題に直面した際、統一した価値観にしたがって判断ができるように「ミッションステートメント」といった尺度を定めたりしている。
 
だがほとんどのケースにおいて「作家としての私はより多くの読者に喜びを与えることを理想としているから、ここではエキジビションを見ないでおく」といった判断の仕方はしないものである。やはり「心が洗われる感情体験はいいものか?」という答えるのに容易な質問を用意する方を好んで選ぶ。
 
私はタスクリストがあっても、ミッションがあっても、脱線を防ぐことはできないと思う。可能なことは脱線し続けている自分の軌跡を追うことだ。そうすることによって自分が道に迷っているということを自覚できる。
 
カーネマンは質問のすり替えについて書いている章(第9章)の冒頭でこう書いている。
 
脳の働きで驚くべき特徴の一つは、めったにうろたえないことである。
 
うろたえるべきなのだ。