佐々木正悟のライフハック心理学

ビジネス書作家・佐々木正悟の公式ブログです。なるべくならお役立ち情報を出していきたいと思っています。

野の医者は笑う:心の治療とは何か?

 

野の医者は笑う: 心の治療とは何か?

野の医者は笑う: 心の治療とは何か?

 

ブログタイトルを書籍タイトルと一緒にするというのは、個人的には避けたかったのだが、迷いに迷ってこうしてしまった。

もうこれ以上迷うのは時間と労力の無駄だと思えてきたのだ。

本書はとてつもなく面白い、とは昨日書いたことだ。筆者は大変な能力の人だと思う。

本書の魅力は多岐にわたりすぎるくらい多岐にわたるし、しかも私は「臨床心理学」というものがオタク的に好きなため、でも臨床心理士になれそうもないため、こういう本はめっぽう楽しめる。

ということを抜きにしても本書は間違いなく面白い本である。

その面白さを支えている大事な要素としてミステリー仕立てのふうを装っている、小説風のそれでもルポなのである。

だけではなく、きちんとした学問的な分析が加わっている。しかも一定以上の説得力がある。

つまり必要なものは全部入っていて、ミステリーなのだ。

ミステリーというのは不思議なもので、「謎」がオカルトであってはならないから、小説の中身は写実的であるほうがいいようだが、面白い作品はたいていそうではない。

たとえば森博嗣の作中人物は名前からして奇妙だし、ありそうもない雰囲気がある。何か特有の薄気味悪さに嘘くささがつきまとっている。

現実なのに、それと同じような嘘くささとちょっと気味の悪い世界が、「野の医者」の世界にはみえる。つまりスピリチュアルとヒーリングと占いと、それからポップ心理学の世界。

臨床心理士であるのに(つまりこの作中では「探偵」である)、作者は「野の医者」の世界に分け入って、最初は冒険のつもりで、だんだんミイラ取りがミイラになっていくのだ。

ファンタジーの世界にとりつかれて戻ってこられなくなるような魅惑と気味の悪い世界。舞台は沖縄だが、ほとんど現実感がない。ヒーラーばかりが登場する。

しかし作者は実際のところ、断じて正気を失わない。失っているように見せるけれど、実際には失っていない。そして、少しずつヒーラーの大物、元締め、黒幕へと迫っていく。最後の最後の大物は「X氏」などと書かれていた。

後半は疾風。これもミステリーの特徴だ。どんでん返しが続く。大物に会ってもそれほど「スピリチュアルのミラクル」は現れることなく肩すかしを食わされるが、一方で河合隼雄だの箱庭療法だのが登場するにいたり、ますます「ヒーリング」と「臨床心理」を区別する線があやふやになってくる。

そうこうするうちに、読者は作者に感情移入してしまうので、だんだん読者としては「ミラクル」に期待してしまうのだ。

しかしミラクルが起こるということは、スピリチュアルの勝利である!

ところがその結果、作者は臨床心理士として大学に就職がかなうという話であって、それは埼玉県の新座にある大学と来ている。じつに大きな、皮肉な、そして退屈なミラクルである。

こうやって沖縄ヒーラーという「虚構」と「現実」を行きつ戻りつしながら、さらに読み進めるほど、謎に肉薄していく感じがせまってくる。「ヒーリング」とはなんなのだろう? インチキなのだろうか? 臨床心理は「正統派」であって、スピリチュアルは集金マシンなのだろうか?

お金を取る方はどう考えているのか? お金を払う人はだまされているのか?

物語も終盤になって、「経済力をつけること自体が癒やしになる」といったような話を、当然のように語る大物まで登場してくる。作者だってそうではないかと。だって、大学で臨床心理の教鞭をとるという経済的基盤を持つと、ストレスから解放されたでしょう?

だが少なくとも作者は「だまされない」。ミステリーで探偵が殺されてしまったり、現実に戻ってこられなくなってしまったら、物語は成り立たない。少なくとも読者はそこに期待する。

でもそれは、また戻ってしまうが、結局なんだかんだいっても臨床心理が正統であって、「前世療法」は・・・、というものなのだろうか。

この本を最後まで読むころには、もうその結論だけ持ち帰って「現実に戻る」ことは、ふつうの読者に無理になっている。ヒーラーに癒やされる人も、現実には存在する。

それはたまたまかもしれない。ヒーラーだって奇蹟は起こすものの「身内」との関係は必ずしも理想的なものになっていない。(身内は難しい、という言葉が出てくる)。所詮は経済、お金かもしれない。

しかし、作者の生活もまた、「経済に癒やされる」のだし、作者の家族関係も「理想そのもの」というわけではなさそうなことが、冒頭に描かれていた。スピリチュアルは「たまたま」で、臨床心理は「再現性がある」のか?

結局、心の治療とは何か?

この謎は、どう解き明かされるのだろう?